“Untitled” (Fortune Cookie Corner), 1990. Fortune cookies, endless supply. Overall dimensions vary with installation. Original installation: approximately 10,000 fortune cookies
[期間中の衛生対策とお客様へのお願い]
新型ウイルス対策につきまして衛生対策を次のように徹底いたします。
アポイント制でのみ営業・展示室内の換気・入口の消毒液設置・混雑時の入場制限・設置作品と入口ドアの定期的な消毒・スタッフのマスク着用と定期的な検温・受付に飛沫防止パーテーションを設置
お客様におかれましては、消毒を徹底しますが様々な方が触れる作品になりますので、マスク着用の上でご体調が万全の時にご来場いただきますようお願い申し上げます。2週間以内に海外渡航歴のある方、渡航歴のある方と接触された方、発熱や咳などの症状がある方は、ご体調の回復をご優先ください。また少しでも体調にご不安のある方や高齢者ご本人、ご同居の家族様にはご来廊をお控えいただくようお願い申し上げます。
設置箇所の奥は次回展覧会の準備中のため作品展示はございません。
ワコウ・ワークス・オブ・アートでは、5月25日(月)から7月5日(月)の間、メキシコ人アーティストの故フェリックス・ゴンザレス・トレスが1990年に発表した作品《Untitled (Fortune Cookie Corner) / 無題(角のフォーチューン・クッキー)》を世界で同時に展示するプロジェクトに参加し、ギャラリーの一角にフォーチューン・クッキーの山で出来た同作品1点を設置いたします。このプロジェクトは、フェリックス・ゴンザレス=トレス財団と、その管理母体であるギャラリー、Andrea RosenとDavid Zwirnerが発案したもので、個人宅を中心とした世界中の1000箇所が招待されています。財団の新しいアーカイブウェブサイトの開設を記念すると共に、新型ウイルス流行後の世界に対するアート界からの提案として行われるものです。当ギャラリーは日曜休業のため最終日は7月4日です。
本作品《Untitled (Fortune Cookie Corner)》は、「美術作品としての唯一性は作品の所有権のみに委ねられる」という定義をコンセプトとして制作されたため、同時に複数の箇所に存在することができ、また鑑賞者が自由にクッキーを持ち帰って消費することが出来ます。当ギャラリーの設置でも、皆様にはご自由にクッキーをお持ち帰りいただけますので、ぜひご来廊をお待ちしております。
5月25日から作品を設置しておりますが新型コロナウイルス拡大防止のため、5月末までは休業、6月2日から当面の間は事前のアポイント制のみで営業しております。鑑賞をご希望の方は上記オンラインフォームよりご予約下さい。1グループ毎の入れ替え制でご案内しております。当日空きが出る場合もございます。火曜から土曜の11時から16時の営業時間内では、お電話やメールでも承っております。尚、当日はマスクを着用の上でご来廊をお願い申し上げます。クローズ中も外からガラス越しに御覧いただけますが、スタッフがいる場合もありますのでドアに掲載している連絡先までお電話下さい。尚、3月から開催しておりました横溝 静展は日程を変更して後日開催いたします。
期間中、この《Untitled (Fortune Cookie Corner)》は同じ作品として世界中に登場します。このプロジェクトは人々が同じ作品を別々の場所で同時に体験することで、いまこの現況の世界におけるコミュニティの重要性や、共感がいかに見えないもの人々を繋ぐのかという事を今一度問いかけるものです。クッキーを持ち帰ることで、作品に触れるという世界共通の体験と、クッキーの占いから抱く個人的な感傷の経験という、公的な行動と私的な経験が同時に生まれます。このような、パブリックとパーソナルの両方を同時に我々に暗示することで、見知らぬ他者への共感を促すアプローチは、ゴンザレス=トレスの生涯を通じた制作活動の要所であり、既存の価値体系が産む社会的な問題を解決しようとする働きかけです。新型ウイルスが様々な世界の変化を引き起こした後に改めてこのプロジェクトとして行うことで、これからの私達がお互いにどう関わっているのかを問いかけます。
さらに期間中はプロジェクトのルールに従って6月14日に一度のみ、クッキーの展示数を初日の状態まで復元いたします。これは作品を介して世界で同時に「再生」を行う瞬間となり、我々が世界に共通して失われたなにかにどう働きかけていけるのかを、共通の出来事を通して暗示していきます。[6/14追記:展示数を復元いたしました]
プロジェクト全文及び英語版は財団公式サイトにてご覧いただけます。
また本プロジェクトにはSNSを通じて世界中でつながる目的もあります。ぜひプロジェクトの公式ハッシュタグ「#FGT🥠exhibition」をつけて、展示風景やお持ち帰りになったクッキーの画像をご投稿されてみて下さい。(弊画廊では特定の作品を除いたほぼすべての展覧会風景をご自由にご掲載いただけ、インスタグラム上にロケーションがございます。どうぞご活用下さい。) 撮影時は周りのお客様の映り込みや、作品及び展示環境、作品以外の著作物の撮影はご遠慮いただくなどのご配慮をお願い申し上げます。撮影時の案内はコチラ
尚、クッキーは外装に入った状態で毎日消毒をしながら展示いたしますが、お持ち帰り後のご飲食はお控えいただきますようお願い申し上げます。またクッキーはプロジェクトの終了と共に作品ではなくなります。作家も観客が占いを楽しむ事を願って作品を制作しましたので、ぜひ割って運勢をご覧になってみてください。※展示上の衛生対策については末尾の案内をご一読下さい。
《Untitled (Fortune Cookie Corner)》と本プロジェクトでの定義について
1990年にゴンザレス=トレスが発表した作品《Untitled (Fortune Cookie Corner)》は、江戸時代から存在する日本の縁起菓子類が北米に持ち込まれ、後に中国系移民の飲食店の中で広まったと言われるアメリカのお馴染みの菓子、”フォーチューンクッキー”の山で出来ています。市販のクッキーを山積みにするこの作品は「作品の唯一性は作品の所有権によってのみ定義される」というコンセプトで制作されており、市販の菓子が美術作品となり、そして一度に任意の場所に同時に存在することができます。今回の展示も、作品オリジナルの所有権を持つ個人の了承を得て行われており、各設置場所も発案者側からの招待という形で設定されています。この作品は他にも、有名なキャンディで作られるタイプや床に散らばった展示方法のバージョンなどが存在し、作者の死後も残された指示書に従って多くの展示が続けられています。「美術作品」に象徴されるように、私達を取り巻く物事の概念はどんな要素から定義づけられるのか、もしくは定義づけられてしまっているのか、世界をとりまく様々な価値体系のありかたを問うのがゴンザレス=トレスの作品に共通する特徴です。また本作品は外部からの来場者によって減っていく性質をもち、展示空間という言わば独占的な価値の空間を問いかけるものでもあります。
今回のために積み上げられる市販のクッキーは、このプロジェクトが始まる5月25日からすべての場所で「作品」となります。使用するブランドには特別な指定がなく、それぞれの地域で入手出来るそれぞれのクッキーがプロジェクト参加者が決めた任意の場所に設置されます。現在は状況的に入手出来る種類が少ないですが、作品を発表した当初、ゴンザレス=トレスは「可能な限り楽観的な占いが多く含まれているフォーチューンクッキー(のブランド)を使用するべきだ」と述べていました。
展示に使用する量は240〜1000個の定められた中から調整するよう、参加する側に委ねられています。そして展示中は毎日来場者によって消費されていき、会期途中の6月14日に一度だけ最初に設置した数まで復元します。そしてプロジェクトの終了日である7月5日以降、クッキーは作品ではなくなります。
この6週間のあいだ、当ギャラリーもプロジェクトに従って展示の様子を記録し続け、フェリックス・ゴンザレス=トレス財団と共有していきます。世界中の展示それぞれが、それぞれの場所や時間と関連を持ち始めることで、当初になかった二次的なイメージが生まれて作品がどのように揺れ動いていくのか、異なる「場」の間でどのような変化を反映していくのかを考察することが、本プロジェクトの趣旨です。
本作品の最大の特徴は、作品が鑑賞者に消費される事を意図的に求めていることです。美術作品の唯一性という神話を無視したこの作品は、ゴンザレス=トレスを代表する作品のひとつともなっています。当時作家が患っていたHIVの影響から、消費される菓子は死の比喩であり、それでありながら継続する命と再生の比喩でもあるとされています。またHIVによって解体されてくゲイコミュニティを表しているという見方などもあります。このようなゴンザレス=トレスの数々の作品はプロセスアートとも呼ばれ、観客に肉体的かつ知性的な関与を呼びかけることを狙いとしています。観客が作品と身体的に関わりをもち、作品のコンセプトの成立を観客との関係性に委ねることで、私達からアクティブな反応を引き起こし、私達をただの美術鑑賞者から作品に対して反応して行動する「観察者」に変え、作品を通して私達に社会的なアクションを動機づけます。
ゴンザレス=トレスはその生涯を公然とした同性愛者として生き、社会運動や政治的な活動にも携わっていました。社会への問題意識からパーソナルとパブリックの交差に関心を置いて、両義的なものを連想させるシンプルながらも思慮深い立体作品を発表していきます。美術的な用語による価値付けや先入観を嫌い、作品には紙の束やパズルやひもやビーズなどのシンプルな日常の素材を用いて、そこに愛と喪失、病気と若返り、ジェンダーとセクシュアリティなどの相反するテーマを載せた作品を制作しました。また鑑賞者が作品の意味付けに参加できるよう、美術作品の確立を作品の見た目や内側だけではなく、観客との関係性を経た先に求めていきます。このように見た目の荘厳さではなく思想的な強度で支えられる美術作品のあり方や、観客との関係性を重視したゴンザレス=トレスの人間的な思想は、今現在の美術界にも大きな影響を与えています。
フェリックス・ゴンザレス=トレス
1957年キューバ・グアイマロ生まれ、1996年マイアミでHIV関連の疾病にて没。
1979年からNYに暮らし、自らをアメリカ人と自称したゴンザレス=トレスは、ニューヨーク大学の国際写真センターでMFAを取得した87年から本格的にアーティストとしての活動を開始します。ジョセフ・コスースやローレンス・ウィナーから影響を受け、ミニマルアートやコンセプチュアルアートの系譜を引き継ぎ、そこに時間や関係性で変化する生成や腐敗の要素を取り入れた、独自の作品を展開させています。特に「人に等しく訪れる時間」という性質と結びつきの深い題材を扱い、生死をテーマにした作品や、作品への関与を通じて時間を観客と共有するなど、日常的なモチーフに思想的な強度をもたせて完成させる作品を発表し、没後も世界各所で作品が展示されています。また市民権が今よりもさらに低かった当時に、自らが同性愛者であることを公言し、政治的な問題意識を作品に落とし込んでいきました。
87年から91年までは、教育や文化活動などの共同作業を行う美術家集団「Group Material」に参加し、コミュニティへの政治的な介入に問題意識を抱きながら、政治的な情報に基づいた活動を様々に展開していきます。89年に「見えないコミュニティの記念碑」として制作し、”People With AIDS Coalition 1985 Police Harassment 1969 Oscar Wilde 1895 Supreme Court 1986 Harvey Milk 1977 March on Washington 1987 Stonewall Rebellion 1969”と書いたビルボードタイプの作品《Utitled》は、ストーンウォールの反乱20周年を記念してNYのシェリダンススクエアに設置されました(2020年現在、オリジナルは美術館で保管中)。ストーンウォールの反乱は、1969年6月28日にNYのゲイバー「ストーンウォール・イン」で立ち入り検査を受けた客や従業員が、初めて警察官という国家権力に真っ向から立ち向かった事件を皮切りに、次々と性的マイノリティの権利を唄う活動が開始されていった一連の活動で、同性愛者の権利獲得運動の転換点として象徴的に知られている出来事です。その後も今回のプロジェクトの作品や 、NY市内に24箇所の看板として設置した2つの身体の痕跡が意味ありげに残るベッドの写真作品《Untitled 》、2つの鎖につながったコード付きの電球がぶら下がる《Untitled (Petit Palais)》など、自分のセクシャリティや愛そして生死を通じて社会の構造を問いかける作品を発表していきます。モチーフの扱いに特徴的なのは、同じ時計を並べた《Untitled (Perfect Lovers)》や同じ窓とカーテンを並べた《Untitled (Loverboy)》などの作品に代表されるような、ミラー、金属リング、電球など、同じ形を2つないし複数対峙させたり明滅させるなどの展示方法です。こういった「正確な対称性」は同性愛者の愛を暗示する「完璧な恋人」の記号として、2つの身体と意識を表そうとするものです。対してインドのリンガとヨニなどに顕著なように、非対称の組み合わせは「異性愛の象徴」として古来から表象文化の中に登場しています。
ゴンザレス=トレスは1990年にはアンドレア・ローゼンギャラリーのNY支店のオープニング展を飾り、1994年にロサンゼルス現代美術館やワシントンDCのハーシュホーン美術館で展示されるなど精力的に活動をつづけます。1995年にNYのソロモンR.グッゲンハイム美術館で行われた回顧展は、その後世界を巡回します。その他もホイットニービエンナーレ、ベネチアビエンナーレなどの数多くの大きな国際展に参加をつづけながら、HIV関連の疾病に悩まされていきました。1992年に恋人を同じくHIV関連の疾病で失い、トレス本人もその後の1996年に生涯を閉じます。38歳で逝去した後も作品の評価は続き、2007年には第52回ベネチアビエンナーレのアメリカ館代表として展示されました。さらに最近では2010年から11年にかけてブリュッセルのWIELS現代美術館美術センターが企画した6部構成の展覧会が、バイエル美術館やバーゼル美術館そしてNY近代美術館 (MoMA)を巡回するなど、現在も数多くの人に作品を通して生と死と人間のあり方を語りかけています。