the landscape 311
ワコウ・ワークス・オブ・アートは、現代社会が抱える核問題という私たちが避けて通れないテーマについて考察する展覧会を今春も開催いたします。
1991年の広川泰士の写真作品は、日本の風景のなかにたたずむ「40年後には解体される運命にある」数々の原子力発電所のひとつである玄海原発を、撮影日とともにまるで標本のように記録しています。その一方で今井智己は、2011年の東日本大震災後、福島第一原発の周囲30km圏内を歩き回りながら、原発自体が見えるか否かにかかわらずひたすら原発の方向をフレームの中心に据えて撮影し続けることで私たちの視線や意識そのものをモチーフとした作品を残し、平川典俊はその視線を原発ではなく周囲の状況そのものに向けて、いわき市や広野町で震災後も続いていく人々の日常生活や自然のありさまをとらえています。また、核爆発を一見「美しい」水彩画として描くミリアム・カーンは「綺麗なものは心地よい」「恐ろしいものは醜い」といった固定観念にゆさぶりをかけながら、倫理と表現についての深い思索をうながします。今回はさらに、原爆の図 丸木美術館で個展「人間動物」を昨年開催した松下真理子による油彩画も1点展示いたします。
[展示作家]
ミリアム・カーン
平川 典俊
広川 泰士
松下 真理子
今井 智己 (courtesy Taka Ishii Gallery)
(A – Z)
ミリアム・カーン
1949年スイス・バーゼル生まれ、現在バーゼルとブレーガグリアを拠点に活動。路上にドローイングを描くパフォーマンスなどからアーティスト活動を開始し、90年代からは現在のスタイルである鮮やかな色彩と動的な筆使いを特徴とした油彩画を主軸に制作を続けている。ユダヤ系のルーツをもつ自身のバックボーンから、絵画の主題には厳しい視線を持った社会問題を主に扱うが、同時に身の回りの山々や動植物などを等しく大切なものとして描き続け、人間の本質を問いながら作品を描いている。
平川典俊
1960年福岡県出身、現在NYを拠点に活動。世界各地で行うフィールドワークに基づいた制作活動を通じて、写真や映像、インスタレーションやパフォーマンスなど様々な媒体を用いながら、一貫して社会システムや自由存在とは何かを問い続けている。
広川泰士
1950年神奈川県出身。ファッションフォトや広告、映画など幅広く活躍する一方で、地方で暮らす人々にデザイナーズブランドを着用してもらったポートレイト作品や、日本各地の原子力発電所を撮影した「STILL CRAZY」など、日本の風景を丁寧に見つめる作品を発表している。
松下真理子
1980年大阪府出身。2004年京都市立芸術大学美術学部油画専攻を卒業。2024年、原爆の図 丸木美術館で個展「人間動物」、gallery TOWEDで個展「うまれ ー叫びに応答し、生の条件に抗うためにー」を開催。
今井智己
1974年広島県出身。静謐さを讃えた日常的な風景の作品で評価を得たのち、近年では、第二次大戦時、それぞれの立場で写真に携わっていた写真家たちの仕事に、自らの視点を寄せて追った「In Their Eyes」や、福島第一原発から30km圏内の山頂から原発建屋にカメラを向けて撮影した「Semicircle Law」などの作品を発表している。