私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない
■オープニング・レセプション
5 月17 日(金)17:00-19:00
■ヘンク・フィシュによるアーティスト・トーク
5 月18 日( 土)15:00-17:00
このたび、ワコウ・ワークス・オブ・アート(六本木)では、2024年5月17日(金)から6月29日(土)まで、オランダ出身の作家ヘンク・フィシュのキュレーションにより、パレスチナ出身の詩人や画家の作品にフォーカスした展覧会『If I must die,you must live』を開催します。 本展のタイトルは、パレスチナの詩人リフアト・アルアライール(1979 年生まれ)が2011年に書いた詩の冒頭部分です。2023年の11月にこの詩をSNSに投稿した彼はその翌月、イスラエル軍の空爆により絶命しました。アルアライールが残したこの詩が、本展全体を通底するメッセージとなっています。
本展では、フィシュの新作を含む彫刻作品やドローイング、ムスアブ・アブートーハ(1992年生まれ)の詩、画家スライマーン・マンスール(1947年生まれ)のエディション作品、ガザのためにアーティストたちが制作したポスター(Posters for Gaza)を中心にご紹介します。また、長年フィシュと親交があり、今回の企画の意図に賛同した奈良美智(1959年生まれ)の新作も展示します。
1950年にオランダに生まれたヘンク・フィシュは、詩的で哲学的な思索から生み出される擬人化された立体や、鑑賞者の記憶に強く残る抽象性の高い造形作品によって1980年代頃から知名度を高め、ヴェニス・ビエンナーレ(1988)やドクメンタ9(1992)をはじめ、数々の国際展に参加するとともに、2000年代以降は日本やシンガポール、中国などアジアにも活動の場を広げています。2023年にはオランダのウィルヘルミナ女王就任100周年を記念して創設されたWilhelminaring賞を受賞し、現在、受賞記念展『Dance in the Court of Justice』がCODA美術館(オランダ)にて開催されています(6/23まで)。
ガザ地区の難民キャンプで生まれ育ったムスアブ・アブートーハは、学生の頃より詩の世界に親しみ、2022 年に出版した詩集『Things You May Find Hidden in My Ear: Poems from Gaza』が、パレスチナ・ブック・アワードやアメリカン・ブック・アワードを受賞、全米批評家協会賞の最終候補にも選ばれました。 2017 年にはガザで初めての英語図書館であるエドワード・サイード公共図書館を創設、2017 年から2019 年までガザのUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)学校で英語教師として教鞭をとりました。
スライマーン・マンスールは、1973年にパレスチナ芸術家連盟を、1994年にはエルサレムにアル・ワシティ・アート・センターを共同設立しディレクターを務めるなど、長年パレスチナの美術界を牽引してきた画家のひとりです。第一次インティファーダ(蜂起)の際には、他の作家たちとともに「ニュー・ビジョン」アート運動を始め、イスラエルからの物資をボイコットし、身の回りにある泥や木材、染料などの素材を作品に使用したことでも知られています。伝統的な衣装を身に纏った人々の姿や、パレスチナの土地を題材にした作品は、人々の長年にわたる苦難と抵抗の記憶を伝えています。
世代の異なる作家たちの想いや言葉が響き合う本展を通して、現在もなお苛酷な状況下にあるパレスチナの人々に思いを巡らすきっかけとなれば幸いです。フィシュの出品作のタイトルは私たちに問いかけます。 “Que sais-je?”(私は何を知っているのか?)と。 ぜひこの機会にご高覧いただきたく、ご案内申し上げます。
ヘンク・フィシュ Henk Visch
1950年オランダ、アイントホーヘン生まれ。同地在住。
ヘンク・フィシュは詩人のような独特の思索と哲学的なイメージの探求からフォルムを導き出し、思想の形態を擬人化した立体や、抽象的な造形の彫刻で知られている。製作を通じて人間の多様な精神や意思を形態化することで、個人や社会とアートとの関係性を見つめ、その対話は作品に還元される。製作にはブロンズを始めとした金属質の素材を使用することが多いが、作り出される様々な造形は、素材が持つ元来のイメージから離れ、見る者の感覚に新鮮な出会いをもたらしている。
作品はこれまで、ミュンヘン、ロッテルダム、アントワープなどヨーロッパ各地の公共空間に設置されている。最初の作品は560cmの橋で、現在クレラー=ミューラー美術館(オッテルロ、オランダ)のコレクションに加えられている。ヴェニス・ビエンナーレ(1988)、ドクメンタ9(1992)をはじめ、数々の展覧会に出品。2000年代に入ってからは、西沢立衛建築による森山邸での展示(2006年)や、伊東豊雄設計によるシンガポールVivoCity(2006年)や北京(2009年)でのパブリックアートプロジェクトに参加するなど、アジアでも活躍の場を広げており、オランダを代表するアーティストとして世界的な評価が定着している。2012年、オランダのアメルスフォールト美術館で開催された回顧展は大好評を博している。2014年、北京の中央美術学院(CAFA)に招かれ、長期滞在して教鞭を執った。