Sites of Technology
ワコウ・ワークス・オブ・アートでは、2015年9月12日(土)より、アメリカのアーティスト、ルイス・ボルツの個展を開催します。
11歳の頃からカメラを持ち写真を撮っていたルイス・ボルツが、ミニマリズムの影響下、本格的に制作を開始したのは20代の頃でした。被写体と構図をめぐる考察を続けるうちに独自の視点を養い、1975年に参加したジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館のグループ展「ニュー・トポグラフィクス」によって風景写真に新たな可能性をもたらし、世界中の写真家に影響を与えることとなりました。しかし彼自身は、もっぱらカメラを使って制作しながらも「自身を写真家と考えたことはなかった」と語っています。
当ギャラリー初のルイス・ボルツ展となる今回は、1986年に制作されたシリーズ《Near Reno》と、1989年から1991年にかけて制作されたシリーズ《Sites of Technology》を展示します。
カリフォルニア州南部に生まれたボルツは、人の手で姿を変える自然の姿がもっとも明確にあらわれている場所としてアメリカ西部を選び、その風景を執拗に撮影し続けました。1977年にネバダ州の砂漠と住宅地を撮影したシリーズ《Nevada》を制作し、その9年後、ふたたびネバダ州を訪れ、北部の砂漠地帯のうちすてられた風景を撮影したのが、今回展示するモノクロのシリーズ《Near Reno》です。
その後、世界が大きな転換を迎えた1989年、ボルツは《Sites of Technology》のシリーズを開始しました。冷戦が終了し、ベルリンの壁が崩壊し、グローバリゼーションが始まったこの年、自然と人工物のせめぎあいの様を観察してきたボルツの作品も転換期を迎えます。《Sites of Technology》では、フランスや日本の最先端の研究施設、原子力発電所、スイスの欧州原子核研究機構(CERN)などを訪れて撮影しています。このシリーズ以降、彼の作品、展示方法に変化が見られているため《Sites of Technology》は時代の節目に位置するのみならず、彼自身の変遷を読み解く重要な鍵ともなっています。先端技術へのたんなる好奇心からこのシリーズを制作したのではなく「ハイテクノロジーに付帯する兆候」に興味があるのだとボルツは述べています。
「別の太陽系から来た人類学者のように」世界を観察しようとし、先入観を捨て、意味や感情も捨て、いかなる価値観も込めないように撮影してきたというボルツが1980年代に残した代表作の数々を、この機会にご高覧いただければ幸いです。
Lewis Baltz ルイス・ボルツ
1945年カリフォルニア州ニューポート生まれ。1971年クレアモント大学院にて美術学修士号取得。2014年パリにて逝去。
1975年の風景写真展『New Topographics: Photographs of a Man-Altered Landscape (ニュー・トポグラフィックス:人間が変えた風景の写真)』 で知名度を高め、その後ヒューストン美術館(1976)、サンフランシスコ近代美術館(1981)、ビクトリア・アルバート博物館(1985)、MOMA PS1(1990)など各地の美術館で個展を開催。1992年にはポンピドゥー・センター、アムステルダム市立美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館で続けて個展が開催された。日本では、1992年川崎市民ミュージアム(作品所蔵)の個展 『ルイス・ボルツ 法則』 の他、1987年京都国立近代美術館(作品所蔵)、1993年東京都写真美術館(作品所蔵)、2007年横浜美術館、2008年千葉市美術館等でのグループ展で紹介されている。