レオン・ゴラブ
このたび、2006年11月10日(金)より当画廊におきまして、アメリカ人作家、レオン・ゴラブの展覧会を開催する運びとなりました。ゴラブは、2004年82歳で逝去するまで数多くの展覧会に参加し、精力的に制作活動を続けました。1996年に妻であり作家のナンシー・スペロと共にヒロシマ賞を受賞し広島市現代美術館で二人展を開催して以来、日本では初めての個展となります。
戦後ニューヨークを中心とした抽象画を主流とする現代美術界にあって、ゴラブはモダニズムという制度にとらわれず、人間の内面を具象画によって表現してきました。1940年代からシカゴ・イマジズムというアール・ブリュット(生の芸術)や具象絵画を支持するグループの中心的な存在であったゴラブは、古代ギリシャやプリミティブ文化からインスピレーションを得て、戦士の闘争シーンなどを巨大なキャンパスと濃厚なテクスチャーによって現代に通ずる人間の葛藤、権力に対する対立や争いを表現してきました。1970年代になると、ベトナム戦争から影響をうけた『ヴェトナム』シリーズを発表。より具体的な社会問題を取り上げた作品に移行し、1980年代からは、戦争にとどまらず社会に蔓延る暴力や社会問題を正面から取り上げ、暴動、人種差別、性差別、弾圧などをテーマにした『傭兵』シリーズや『尋問』シリーズを発表。絵の具を支持体に塗りこみ、溶液でそぎ落とすという作業を繰り返し、支持体の表面を皮膚のように表現することで、薄付きの絵の具とは裏腹に強いイメージを打ち出します。晩年は、一般メディアに登場する強烈なスローガンや犬や髑髏などシンボリックなモチーフを記号的に配置するより錯視的な表現になり、別れ、喪失、死などをテーマにした作品を発表。絵画を通して人間の暴力や権力に対する欲望を告発し続けたゴラブですが、反戦反暴力を訴えるだけにとどまらず、その作品は見るものに自分と社会との関係を強く再考させます。
今展では、ペインティングとドローイング合わせて十数点展示する予定です。また、市原研太郎氏(美術評論家)と住友文彦氏(東京都現代美術館学芸員)によるテキストを含むカタログも合わせて発行いたします。
Leon Golub レオン・ゴラブ
1922年シカゴ生まれ。アート・インスティチュート・イン・シカゴ在学中の1940年代から制作を開始。社会問題をモチーフにした具象絵画を制作。1996年、妻であり同じく現代美術作家のナンシー・スペロと共にヒロシマ賞受賞。1987年のドクメンタ8や2002年のドクメンタ11など、アメリカだけに留まらず、ヨーロッパでの展覧会にも数多く参加。2004年8月逝去。